スーツの生地―春夏や秋冬物、イタリア製やイギリス製による違い

スーツ選びで意外と重要なのが「生地」。
素材によって見た目の印象も違ってきますし、産地によっても質感や丈夫さが大きく変わります。また、春夏用の生地と秋冬用の生地の区別を知らずにスーツを選んでしまうと、購入後に後悔することになりかねません。
逆に、大まかにでも生地の特性を知っていればスーツ選びで失敗することはありません。

この記事では、見落としがちなスーツの「生地」について知っておくべきことを解説します。

スーツの春夏物生地と秋冬物生地のちがい

スーツには、大きく分けて春夏物と秋冬物があります。
これらの特徴の一番わかりやすい違いが生地の素材です。当然春夏物の生地は薄く、秋冬物は厚手です。

スーツに限らず、アパレル業界というのは毎年決まった時期に生地の仕入れを行います。どのお店も大抵は1月下旬〜2月頃に春夏物、8月〜9月上旬頃に秋冬物が出揃い、店頭に並びます。それぞれその直前の1月上旬、7月下旬までに「クリアランスセール」を行い、売れ残った旧シーズンものを一掃するわけですね。

そのため、たとえば秋ごろから着る予定のスーツを、7月にイージーオーダーしようと思いテーラーに足を運ぶと、「生地が無い」と言って追い返されることも少なくありません。追い返されると言うと誤解を招くかも知れませんが、むしろ客の知識がないことをいいことに、余り物の春夏生地で秋冬スーツを作ってしまうのはかなり不親切で悪質なテーラーです。

さて、ここで気になるのが「オールシーズン物」のスーツです。紳士服店でスーツを選んでいるとき、「オールシーズン着れるスーツですよ。」と販売員に薦められた経験がある男性も多いかと思います。この売り文句、決して嘘ではないのですが、真実でもありません。

少し考えればわかることですが、うだるような暑さの夏も、凍えそうな寒さの冬も、同じように快適に過ごせてしまう魔法のような生地が本当に存在するなら、誰もがその生地を選びますよね。
オールシーズン物のスーツとは、「春夏生地だけど真冬でも着れなくはない」もしくは「秋冬生地だけど夏に来ていても不自然ではない見た目」と考えるのが正しい解釈です。
実際春夏物でも11月頃までは問題無く着れる3シーズン対応の生地もありますし、逆もまた然りです。つまり、オールシーズン物のなかには「春夏寄り」のものと「秋冬寄り」のものがあることを知っておきましょう。販売員の売り文句を鵜呑みにせず、自分が欲しいスーツはどの季節をメインで着るのかを決めておけば失敗することはないでしょう。
現実的には、クールビズが定着した昨今、真夏にジャケットを着る機会は減っているので「秋冬寄り」のスーツを選ぶのがベターですね。

その上で、冬ならフランネルやツイード、夏ならサマーウールなど、その季節専用の素材を使ったスーツを一着持つとコーディネートの幅がより一層広がります。ほとんどの人はオールシーズン物のスーツに身を包んでいるので、まわりとはひと味違ったセンスの良さを主張できます。

イタリア製、イギリス製、国産生地の違い

生地の「素材」によってスーツの季節感が変わることをここまで説明してきましたが、ここからは生地の「生産地」の違いです。

生産地の違いで何が変わるのかというと、それはスーツの「丈夫さ」と「見た目」です。

まず、イタリア製の生地で作られたスーツですが、見た目に光沢感や艶があるものが多く、高級感があります。ハイブランドのスーツはイタリア製生地で作られたものがほとんどです。ただ、耐久性には不安があるので、自転車通勤や、体を動かす仕事にはあまり適していません。ハレの場やデートなど、ここ一番の勝負スーツとして使うのがいいでしょう。代表的な生地ブランドとして、エルメネジルド・ゼニアやロロピアーナ、カノニコなどがあります。

イギリス製生地のスーツはまったく逆で、光沢感や見た目の華やかさがイタリア製スーツに劣る代わりに、耐久性に優れています。そのため、週に数回着るスーツで、5年先も変わらず愛用するのであればイギリス製生地のほうが信頼できるでしょう。代表的な生地ブランドは、スキャバルやジョン・フォスター、ハリス・ツイードなどです。

なぜイタリア製、イギリス製でこのような違いが出るかというと、縫製の違いであり、単糸のイタリアはしなやかで美しく、双糸のイギリスは硬く重厚に仕上がるわけです。もちろんイタリア製が極端に脆いわけではないですし、イギリス製のしっかりとした質感のスーツはむしろ冬場のスーツに適した見た目とも受け取れます。

最終的には個人の好みやこだわりになってきますが、「サラッとしなやかなイタリア」、「ガシっと張りのあるイギリス」と知っておきましょう。

さいごに、国産生地ですが、かつてはスーツ生地としてはイタリア・イギリスに大きく劣ると言われていました。ただ、スーツの歴史では遅れを取るとはいえ、そこはものづくりの国。近年では前述の両国と比べても遜色ありません。見た目はイタリア生地をベースに、しっかりと丈夫に縫製された生地が多く、しかも輸送費がないぶん安いです。大手の紳士服量販店や中級ブランドスーツに使われることの多い国産生地ですが、イージーオーダーなどで生地を選ぶ際に選択肢に入れても問題のないクオリティですね。

スーツの生地選びまとめ

・スーツには春夏物と秋冬物があり、使われる生地の素材によって適する季節がかわる。厳密にはオールシーズン物というものはないが、通年とおして着られるスーツを買うなら、9月〜春先頃まで使える「秋冬寄り」の生地を選ぶべき。

・しなやかで伊達男風のスーツが欲しいならイタリア製、丈夫で重厚感のあるスーツが欲しいならイギリス製生地を選ぶ。国産生地は安定のクオリティ。

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